芸術運動 · 1940〜1950年代 · ニューヨーク
抽象表現主義の美術と画家
抽象表現主義とは、1940年代のニューヨークで、ジャクソン・ポロック、ウィレム・デ・クーニング、マーク・ロスコらアメリカの画家たちが、感情を表す大きな抽象画を描いたことから始まった芸術運動です。勢いのある即興的な筆づかいや絵具を流し込む描き方のアクションペインティングと、一色の広い色面で画面を満たすカラーフィールドペインティングがあり、ニューヨーク派とも呼ばれます。それより前の表現主義とは別の運動です。有名な作品はまだ著作権が切れていないため画像を載せておらず、下に並ぶ素描は抽象表現主義の作品ではありません。
抽象表現主義の画家のほとんどは1955年より後に亡くなったため、その絵は多くの国でまだ著作権で保護されています。ポロックは1956年、ロスコは1970年、デ・クーニングは1997年に亡くなりました。当サイトでこの分類に入っている9点は、1932年に亡くなったアメリカの画家カール・ニューマンとベルギーの未来派ジュール・シュマルジゴーによる、それより前の抽象的な素描です。
抽象表現主義の画家の作品はまだ著作権で保護されているため文章で紹介し、下には、この分類に入っている、運動が始まる前に描かれた抽象的な素描9点(カール・ニューマンとジュール・シュマルジゴーの作品で、抽象表現主義の作品ではありません)を並べ、無料でダウンロードできるようにしています。
選定・執筆:Pavel Mazuelas2026年11月5日更新
抽象表現主義に分類された作品
アメリカの画家カール・ニューマン(1858〜1932年)とベルギーの未来派ジュール・シュマルジゴー(1882〜1917年)が、運動が始まる前に描いた抽象的な素描です。すべてパブリックドメインで、無料でダウンロードできます。
抽象表現主義の前と後:美術史の流れ
表現主義1905年頃〜1914年
キュビズム1907年頃〜1914年
シュルレアリスム1924年〜
抽象表現主義1940〜1950年代
現代アート1970年頃〜現在
抽象表現主義と表現主義、シュルレアリスムの比較
| 比較項目 | 表現主義 | シュルレアリスム | 抽象表現主義 |
|---|---|---|---|
| 年代 | 1905年頃〜1914年 | 1924年〜 | 1940〜1950年代 |
| 場所 | ドイツ(ドレスデン、ミュンヘン、ベルリン)とオーストリア | パリ、のちにベルギー、イギリス、アメリカ、メキシコ | アメリカ・ニューヨーク |
| 目的 | 見た目より内面の感情を表す | 夢と偶然によって無意識の心を解き放つ | 抽象でありながら、表現的・感情的な効果をもつ美術をつくる |
| 方法 | 強烈で不自然な色彩、歪んだ形、厚い絵具 | 写実的に描いた夢のイメージ、自動記述、不気味な組み合わせ | 勢いのある身ぶりの筆づかい、床に置いたカンヴァスに流し込み垂らす絵具、一色の広い色面 |
| 代表作 | ムンク《叫び》 | ダリ《記憶の固執》 | ポロック《秋のリズム(ナンバー30)》 |
| 代表的な画家 | ムンク、キルヒナー、カンディンスキー、マルク | ブルトン、ダリ、マグリット、エルンスト、ミロ、タンギー | ポロック、デ・クーニング、ロスコ、クライン、ニューマン、スティル |
抽象表現主義についてのよくある質問
抽象表現主義とは?わかりやすくいうと?
抽象表現主義とは、1940〜1950年代のニューヨークで、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコ、ウィレム・デ・クーニングらアメリカの画家が生み出した、新しい形の抽象画のことです。わかりやすくいえば、具体的なものを描かずに感情を伝える絵です。テートによれば、この名前は、抽象でありながら表現的・感情的な効果をもつ美術をつくろうとした彼らの狙いを表しています。ゲッティ研究所の『美術・建築シソーラス(AAT)』は、描く行為を記録する即興的で身ぶりの大きな構成から、大きな色面で組み立てた静かでほぼ単色の作品までの幅を挙げています。
出典: Tate: Abstract expressionism · Getty AAT: Abstract Expressionist
抽象表現主義の特徴は?
抽象表現主義の絵は抽象的で、しばしば巨大で、感情を伝えるためのものです。テートは大きく2つに分けています。勢いのある表現的な筆づかいで、絵具をカンヴァスに流し込んだり垂らしたりするアクションペインティングと、一色の広い色面による単純な構成で、瞑想的な反応を引き出そうとするカラーフィールドペインティングです。どちらも即興的な印象を与えることが多く、画家の多くは神話や、芸術は無意識から生まれるべきだというシュルレアリスムの考えに学びました。
出典: Tate: Abstract expressionism · Tate: Gestural · The Art Story: Abstract Expressionism
抽象表現主義はいつ始まり、いつ終わった?時代背景は?
抽象表現主義は1940年代のニューヨークで形づくられ、1950年代まで栄えました。第二次世界大戦後のアメリカの美術です。テートによれば、ニューヨーク派という名前は1940年代に使われ始め、新しい様式は1950年代初めに抽象表現主義として知られるようになりました。批評家ハロルド・ローゼンバーグは、1952年12月の『アートニュース』でアクションペインティングという言葉を作りました。1960年頃からは、批評家クレメント・グリーンバーグが1964年にポスト・ペインタリー・アブストラクションと呼んだ、より純粋に抽象的なカラーフィールドペインティングが、その考えを新しい方向へ進めました。
出典: Getty AAT: Abstract Expressionist · Tate: New York school · Tate: Action painters · Tate: Colour field painting
抽象表現主義を始めたのは誰?ニューヨーク派とは?
一人の創始者がいたわけではなく、1940年代のニューヨークで活動した画家たちの間で育ちました。テートによれば、そのころ彼らは「ニューヨーク派」と呼ばれていました。テートはアーシル・ゴーキーを形成期の重要人物としています。ゴーキーは1940年代、戦時のヨーロッパから亡命してきたシュルレアリストたちと出会い、その自由に流れる自動的な描き方の考えに刺激されて、名声をもたらす様式を築きました。クリフォード・スティルは第二次世界大戦直後に運動を始動させたとされ、ジャクソン・ポロックは1947年にドリップの技法を生み出しました。
出典: テート・モダン:Arshile Gorky (exhibition, 2010) · The Art Story: Abstract Expressionism · Tate: New York school
抽象表現主義の代表的な画家は?
最もよく知られた抽象表現主義の画家は、ジャクソン・ポロック、ウィレム・デ・クーニング、マーク・ロスコです。テートは、ポロック、デ・クーニング、フランツ・クライン、アーシル・ゴーキーをアクションペインターに、ロスコ、バーネット・ニューマン、クリフォード・スティルを大きな色面の画家に数え、ロバート・マザウェルとハンス・ホフマンを身ぶりの画家、ヘレン・フランケンサーラーを1960年頃にカラーフィールドペインティングをさらに進めた画家に挙げています。このうち、著作権の保護期間が作者の死後70年の国々でパブリックドメインなのは、1948年に亡くなったゴーキーだけです。
出典: Tate: Abstract expressionism · Tate: Action painters · Tate: Gestural · Tate: Colour field painting · Tate: Arshile Gorky, 1904–1948
抽象表現主義の代表作は?
百科事典の記事がある言語の数で測ると、最もよく知られた抽象表現主義の絵は、ジャクソン・ポロックの《ナンバー5, 1948》(22言語)で、ウィレム・デ・クーニングの1953年の《女 III》(15言語)、メトロポリタン美術館にあるポロックの1950年の《秋のリズム(ナンバー30)》(11言語)が続きます。ほかに、ワシントン・ナショナル・ギャラリーのポロック《ラベンダー・ミスト》、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のポロック《ワン:ナンバー31, 1950》とバーネット・ニューマン《英雄的崇高なる人》も有名です。いずれもまだ著作権で保護されているため、名前だけを挙げています。
出典: Metropolitan Museum of Art: Jackson Pollock, Autumn Rhythm (Number 30)
アクションペインティングとは?ポロックの描き方は?
アクションペインティングは、描く身体の動きそのものが完成した作品の一部になる、抽象表現主義の身ぶりの側面です。批評家ハロルド・ローゼンバーグが1952年12月の『アートニュース』でこの言葉を作り、アーシル・ゴーキー、フランツ・クライン、ウィレム・デ・クーニング、ジャクソン・ポロックのような画家を念頭に置いていました。ポロックの描き方はドリップ・ペインティングとして知られます。テートによれば、彼はカンヴァスを床に置いてそのまわりを動き、缶から絵具を流し込んだり、筆や棒から垂らしたりしました。
出典: Tate: Action painters · Tate: Abstract expressionism · Tate: Gestural · The Art Story: Abstract Expressionism
カラーフィールドペインティングとは?
カラーフィールドペインティングは、ほぼ平らな一色の広い色面で組み立てる、抽象表現主義のもう一つの側面です。テートによれば、この言葉は1950年頃からのマーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、クリフォード・スティルの作品に最初に使われ、その単純な構成は瞑想的な反応を引き出すためのものでした。1960年頃からは、ヘレン・フランケンサーラー、モーリス・ルイス、ケネス・ノーランドらが、先行する画家たちの感情的、神話的、宗教的な内容をもたない、より純粋に抽象的なカラーフィールドペインティングを展開しました。
出典: Tate: Colour field painting · Tate: Abstract expressionism · Getty AAT: Color-field
「抽象表現」とは?抽象画との違いは?
「抽象表現」は、目に見える現実をそのまま写さず、形、色、線、筆の跡で何かを表すことで、その方法で描いた絵が抽象画です。テートは抽象芸術を、視覚的な現実を正確に描こうとせず、形、色、表現的な筆跡で効果を生む芸術と定義し、20世紀初めから近代美術の大きな流れの一つで、1910〜1920年頃にマレーヴィチやモンドリアンが純粋な抽象絵画を切り開いたとしています。抽象表現主義は、そのうち1940〜1950年代のニューヨークで生まれた特定の芸術運動の名前です。有名な抽象画は抽象画のページで紹介しています。
表現主義と抽象表現主義の違いは?
表現主義は、20世紀初めにドイツの画家たちが始めた先行する運動で、強烈な色と歪んだ形で、風景や肖像を内面の感情の劇的な表現に変えました。抽象表現主義は第二次世界大戦後のアメリカで生まれた運動で、テートはこれを、しだいに抽象化していった表現主義的な絵画と説明しています。見分けられる主題はほとんど姿を消し、絵具、身ぶり、色だけで感情を伝えます。
出典: Tate: Expressionism · Tate: Abstract expressionism · Tate: Gestural
シュルレアリスムは抽象表現主義にどんな影響を与えた?
テートによれば、シュルレアリスムは抽象表現主義の画家たちに、芸術は無意識から生まれるべきだという考えと、ジョアン・ミロの自動的で計画しない描き方をもたらしました。主要なシュルレアリストは戦争中のヨーロッパからニューヨークへ逃れ、アーシル・ゴーキーは1940年代に彼らと出会って、その自由に流れる自動的な描き方に刺激され、成熟した様式を築きました。ゲッティ研究所の『美術・建築シソーラス(AAT)』は、運動の源として総合的キュビズムと新造形主義も挙げています。
出典: Tate: Abstract expressionism · テート・モダン:Arshile Gorky (exhibition, 2010) · Getty AAT: Abstract Expressionist · The Art Story: Abstract Expressionism
抽象表現主義の女性画家は?
抽象表現主義の女性画家には、リー・クラズナー、エレイン・デ・クーニング、グレース・ハーティガン、ジョーン・ミッチェル、ヘレン・フランケンサーラーのほか、メアリー・アボット、パール・ファイン、ジェイ・デフェオ、ソニア・ゲクトフがいます。多くは1940〜1950年代にニューヨークやサンフランシスコで活動しましたが、長く運動の歴史から外されてきました。2016年にはデンバー美術館が巡回展で彼女たちの作品をまとめて紹介しました。クラズナーは1984年、フランケンサーラーは2011年に亡くなったため、その絵はまだ著作権で保護されています。
出典: The Art Story: Abstract Expressionism · Tate: Lee Krasner, 1908–1984 · Tate: Helen Frankenthaler, 1928–2011
抽象表現主義の作品はパブリックドメイン?無料でダウンロード・商用利用できる?
多くはまだパブリックドメインではありません。イギリスやEUのように著作権の保護期間が作者の死後70年の国々で自由に使えるのは、1955年以前に亡くなった画家だけで、抽象表現主義ではアーシル・ゴーキー(1948年没)とブラッドリー・ウォーカー・トムリン(1953年没)です。ジャクソン・ポロックは1956年に亡くなったので、その絵は2027年1月1日に仲間入りしますが、ロスコとデ・クーニングは何十年も保護が続きます。アメリカでも、メトロポリタン美術館とシカゴ美術館は、ポロックとゴーキーの絵にそれぞれの財団とアーティスツ・ライツ・ソサエティの著作権表示を付けています。パブリックドメインの作品の商用利用については専用のページで説明しています。
出典: イギリス1988年著作権・意匠・特許法 第12条 · Cornell University Library: Copyright Term and the Public Domain · Tate: Arshile Gorky, 1904–1948 · Metropolitan Museum of Art: Bradley Walker Tomlin, Number 11 · Tate: Jackson Pollock, 1912–1956 · Tate: Mark Rothko, 1903–1970 · Tate: Willem de Kooning, 1904–1997 · Metropolitan Museum of Art: Jackson Pollock, Autumn Rhythm (Number 30) · Art Institute of Chicago: Arshile Gorky, After Khorkom
有名な絵画をまだ掲載していない理由
有名な絵画として選ぶのは、当サイトのコレクションにある抽象表現主義の絵画のうち、2つ以上の言語で百科事典の記事があり、画家の作品がパブリックドメインになっているものです(2026年11月に確認)。現在この条件を満たす絵画は当サイトにないため、まだ有名な絵画の一覧はありません。
ジャクソン・ポロックの《ナンバー5, 1948》や《秋のリズム(ナンバー30)》、ウィレム・デ・クーニングの《女 III》など、最もよく知られた抽象表現主義の絵画は、画家が1955年より後に亡くなり、多くの国でまだ著作権で保護されているため紹介していません。当サイトが扱うのは1955年以前に亡くなった作家の作品だけです。この運動の画家でこの基準を満たすのはアーシル・ゴーキー(1948年没)とブラッドリー・ウォーカー・トムリン(1953年没)だけで、その絵はまだ当サイトのコレクションにありません。当サイトで抽象表現主義に分類されている9点は、カール・ニューマンとジュール・シュマルジゴーによるそれ以前の素描なので、抽象表現主義の絵画としては数えていません。
年代、場所、説明は、テート、ゲッティ研究所の『美術・建築シソーラス(AAT)』、メトロポリタン美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、スミソニアン・アメリカ美術館、Wikidataによります。
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